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遺言書が無効になるケースについて


 実際、自分で書いて作成する自筆証書遺言書は、手続きで結局使えないことが多いというのが実務においての実感です。

 
形式に問題があったり、実質的な内容に問題があったりします。

 
では、遺言書が無効になるケースとは具体的にどのような場合なのか、以下解説いたします。
 

1、遺言能力の欠如


 遺言を作成したものの、作成当時15歳未満であったとか、事理弁識能力を欠いた状態であった場合、かかる遺言書の効力は認められません。

 例えば、13歳の子や重度の認知症の人に遺言書を書くよう促して作成したとしても、そのような遺言書は無効となります。

2、詐欺・錯誤・強迫があるケース


 詐欺や錯誤、強迫等を受けて遺言書を作成するに至った場合はどうでしょうか。

 
このような場合であっても、遺言中の身分行為については無効になりません。

 
例えば、強迫によって遺言書で子を認知した場合でも、その部分は有効となります。
 
 
一方で、財産上の事項については、錯誤や詐欺・強迫を理由に取り消すことができます。
 
 
例えば、強迫により遺言者の不動産を長男に相続させるという遺言をしたとしても、これを取り消すことができます。
 

3、遺言書の形式的無効

自筆証書遺言の要件


 遺言者の最終意思の真意を確保して、遺言の偽造等を防ぐため、遺言には厳格な要件が定められています。

 
そして、この要件を書く遺言は形式的無効とされています。
 
 
そこで、遺言の有効性の判断のためには、その要件を確認することが欠かせません。
 
 
自筆証書遺言の要件は、遺言者が「その全文」、「日付」、「氏名」を「自書」し、「押印」すると定められています。
 
 
自筆証書遺言が有効になるためには、①全文自書②日付③氏名④印、が必要なのです。
 

 ●要件①全文自書


 遺言者本人の作成か否かの判定のため、遺言書の記載は全て遺言者自身が自書する必要があります。

 
もっとも、相続財産が複数不動産・株・投資信託等であって、多種多様に及ぶ場合に、財産目録が作成され、遺言書の記載にも「別途財産目録①の財産は・・」のように書かれるときもあります。

 
このような場合、財産目録全てを自書することが困難です。そのため、財産目録は自筆証書遺言と一体のものとして添付されている場合で、その目録の全ての用紙に署名押印をすることで、自書によらずに作成することができるとされています。
 

 ●要件②日付


 遺言能力の判定時点の確定や、複数の遺言があった場合の先後の確定のため、遺言書に日付を自書する必要があります。

 
そのため、日付は日の特定が必要です。「令和5年1月」というように年月のみでは、無効となります。

 
また、「令和5年1月吉日」という記載だと特定の暦日を示せておらず、無効となります。

 
日の特定があればいいのですから、「70歳の誕生日」とか、「定年退職の日」という記載でも十分とは考えられていますが、暦日の記入をしておくとより安心です。
 

 ●要件③氏名


 遺言者の特定のため、氏名を自書する必要があります。

 
そのため、戸籍上の氏名である必要はなく、婚姻前の氏その他通称でも、ペンネーム、芸名などでもよいとされています。
 

 ●要件④印


 遺言者の同一性、遺言の真意性及び完結性を担保するため、遺言書への押印が必要です。
 
 
実印である必要はなく、認印でも認められます。また、指印でもOKです。
 
 
花押については、印章による押印と同視できないとする裁判例があり、認められない可能性が非常に高いです。
 
 
もっとも、日本に帰化したロシア人が英文で遺言書を作成し、署名しただけの遺言であっても、日本の生活でほとんど「印」を用いなかったという特別な事情を考慮して有効にした裁判例もあります。
 
 
通常、遺言者の手によって押印されますが、病床にある遺言者の依頼により遺言者の面前で他人が押印した場合に、有効とした裁判例があります。自身の押印が難しく他者の押印を同意し目の前で見ていたといった事情がありました。

自筆証書遺言保管制度の利用


 本制度により保管する際、法務局は遺言者の本人確認を行い、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて,外形的なチェックを行います。
 
 
そこで、簡易的に形式的無効でないか判定してもらえるように思えます。
 
 
もっとも、法務局によると、保管の際に遺言の内容について相談に応じることはできず、本制度自体が、保管された遺言書の有効性を保証するものではないとはされています。
 

公正証書遺言における形式的無効


 公正証書遺言は、公証役場において公証人の前で作成される遺言書です。
 
 
公の機関において作成されるものですので、形式的な要件を欠いて無効という事態は、基本的にありません。
 
 
もっとも、当然のことですが、公証役場で遺言者本人になりすました別人が本人であるかのように署名・捺印した場合は無効となります。

4、遺言書の実質的無効


 遺言書は、形式的には有効であっても、相続開始時の状況や遺言内容の表現によっては実質的に無効になってしまいます。
 
 
よくあるケースとしては、

 
・受遺者がすでに死亡しており、そのような場合の記載がないとき

 
・遺産の記載が間違っているとき

 
・すでに存在していない口座から預貯金を渡すことになっているとき

 
・遺産額が減っており各相続人に金銭を分けられないとき

 
・同じ遺産について違うことが書いてある等、全体として矛盾した内容になっているとき

 
・「死後のことは妻に全て任せます」といった抽象的な表現の記載のみであるとき

 
等が挙げられます。
 

5、まとめ


 以上のように、遺言者のみで作成した遺言書、特に自筆証書遺言書は無効であるケースが多いです。
 
 
相続手続き上結局使えなくなるという落とし穴も多く存在しているので、専門家に相談して遺言書を作成することをオススメします。
 

執筆者 森俊介

行政書士森俊介事務所 代表行政書士 

『相談者に寄り添う相続とすること』がモットー。触れた相談事例は2000件以上。相続を取り扱う司法書士・税理士・弁護士と連携しワンストップサービスを築く。各地でセミナー相談会を実施中。Youtube・Twitterでも相続・遺言情報を発信している。

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