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◆ 相続放棄ができない理由となる相続の単純承認について解説いたします
亡くなられた人に多額の借金がある場合、家庭裁判所に申述する相続放棄を考える相続人は多いです。
ですが、相続開始後に一定の行為をする、もしくはしないと相続を認めたことになり相続放棄ができなくなります。
本稿では、相続を認めるという単純承認について、代表的な行為を挙げて詳しく解説いたします。
動画解説もぜひご覧ください。
目次
・相続放棄とは
・相続放棄と事実上の放棄(遺産放棄)
・実際に相続放棄が利用されるケース
2、相続の単純承認により相続放棄できなくなる
・相続の単純承認とは
・単純承認の代表的な行為
3、①熟慮期間中に相続放棄しなかった
・自働的に単純承認となり相続放棄できなくなる
・熟慮期間の起算点に注意
4、②遺産分割協議を行った
・相続を承認したからこそ協議している
・戸籍収集や財産調査に留まっている場合
5、③被相続人の債権を取り立てた
・債権を取り立てて取得した場合
・時効の完成を防ぐため請求したに留まっている場合
6、④財産的価値ある「形見」を受取った
・相続を受けたものと同視される可能性
・財産的価値のないものを受取ったにすぎない場合
7、⑤被相続人の債務を支払った
・被相続人の財産より債務を支払った場合
・相続人自身の財産より債務を支払った場合
・単純承認にあたれば相続放棄はできない
・当事務所のような相続専門家への相談がオススメです
相続放棄とは、自己のために相続があったことを知ってから3か月(熟慮期間)以内に家庭裁判所に申述することで、被相続人のプラス・マイナスの財産を負わないという制度です。
相続放棄することで、初めから相続人とならなかったものとみなされます。
相続に普段かかわっていない方が、「相続を放棄したい」と主張される場合があります。
この場合、遺産分割協議で自身が財産を取得しないという事実上の相続の放棄(遺産放棄)と、借金もチャラにできるがはじめから相続人でなかったことになる家庭裁判所に申述する正式な相続放棄の2つを混同して考えていることが非常に多いです。
注意していただきたいのは、家庭裁判所への相続放棄は、認められると初めから相続人でなかったことになるため、非常に重いものです。
後述しますが、遺品の中の財産的価値のあるものを取得することも許されなくなります。
今回テーマとしているのは、事実上の放棄(遺産放棄)でなく、家庭裁判所に申述する正式な相続放棄です。
以上のように、相続放棄とは、申述が受理されると初めから相続人とならなかったものとなる、非常に重いものです。
そのため、亡くなった人(被相続人)が多額の借金がありそれを負いたくない場合等に利用されることがほとんどです。
相続の単純承認とは、相続開始による包括承継(全て引き継ぐこと)の効果を、相続人がそのまま確定させることです。
これはいわば相続を認めることですから、単純承認にあたる行為を相続人が行った場合、相続放棄はできなくなります。
では、相続の単純承認にあたる行為はどのようなものがあるでしょうか?
代表的なものとしては、①熟慮期間中に相続放棄しなかった、②遺産分割協議を行った、③被相続人の債権を取り立てた、④財産的価値ある「形見」を受取った、⑤被相続人の債務を支払った、という行為が挙げられます。
以下、これら①~⑤につき1つ1つ詳述いたします。
自働的に単純承認となり相続放棄できなくなる
上の図の通り、自己のために相続があったことを知ってから3か月(熟慮期間)何もしなかったら、自働的に相続の単純承認になり、相続放棄不可になります。
熟慮期間について、その起算点に注意が必要な場合があります。
例えば、上の図のように、被相続人の相続人が妻、長男、長女の3名で、長男、長女が相続放棄したとしましょう。
相続放棄申述書が受理されると、長男、長女は初めから相続人でなかったこととなります。
そして、この被相続人には父母・祖父母等直系尊属は皆既に亡くなっているため、兄弟である弟、妹が新たに相続人となります。
この新たに相続人となった弟と妹については、当初の相続開始を知った時点から3か月ではなく、長男・長女の相続放棄申述が受理され自分が相続人になったことを知ってから3か月となります。
初の相続を知ってからだと時間的に厳しすぎますし、そもそも長男・長女が相続放棄したことによって相続人となったためです。
相続人が遺産分割協議を行ったら、重大な勘違い等遺産分割協議自体が無効になるような事情がない限り、自働的に相続の単純承認になり、相続放棄不可になります。
なぜならば、相続人として相続を承認しているからこそ、遺産分割協議を行っているといえるためです。
では、遺産分割の前段階である戸籍の収集、財産の調査をしている段階であっても、相続放棄はできないのでしょうか?
これらは、相続人確定、財産確定のための事務手続きといえるので、相続を認めて遺産分割協議を行ったとはいえないでしょう。
そこで、このような場合は相続放棄することができます。
例えば、被相続人にAに対して貸したお金の請求権がある場合、相続人が被相続人の債権を取り立てて、受領し、相続財産とは別にして取得した場合、相続の単純承認となります。
よって、相続放棄は不可となります。
ただし、時効が完成するのを防ぐため債権を請求するにとどまる場合は、単純承認に該当しません。
これは、相続の単純承認行為ではなく、財産の価値を保存し現状を維持する行為である保存行為と言われています。
そこで、この場合は相続放棄することができます。
被相続人の宝石や毛皮、ブランドもののスーツやコートなど、金銭的価値が高いものを多数受け取ると、相続を受けたものと同視されて単純承認に該当する可能性があります。
そのため、単純承認に該当した場合、相続放棄は不可になります。
一方、普段着の衣類や使い古された食器等、財産的価値のほとんどない遺品については、それを受取ったり処分したりしても単純承認にあたらない可能性が高いと考えられます。
そのため、財産的価値がなく単純承認に該当しなかった場合、相続放棄することができます。
もっとも、私は相続放棄されるお客様に対しては、遺品全般につき可能ならできるだけ触れないよう伝えています。
財産的価値のないように思われていても、価値ある絵画であったり名義変更が必要なものであったりして、単純承認とみなされる危険性があるためです。
被相続人の借金について、督促が来たので被相続人の財産より支払った場合があります。
放っておくと、取り立ての方より電話や訪問があるのではないかと怖くなり、すぐ行動してしまうケースがあります。
このような支払い行為は単純承認に該当します。
そのため、相続放棄は不可になります。
ただし、被相続人の借金について、相続人自身の財産より支払った場合は、単純承認に該当しません。
被相続人の財産を債務にあてるという財産処分をしたとはいえないためです。
相続放棄した後なら支払う必要がないものを支払ったにすぎません。
そのため、この場合は相続放棄することができます。
以上のように、単純承認に該当すれば相続放棄をすることはできません。
相続放棄をするにあたって絶対にしてはいけない行為は他にもいくつかあるので、特に被相続人の財産・権利・債務に触れる際には十分注意しましょう。
相続人が相続放棄したいと思っていても、単純承認行為をしてしまっており難しい場合があります。
もっとも、すでに単純承認行為をしてしまったと相続人が思っていても、該当しないケースもあります。
相続放棄は人生を左右する手続きです。
相続放棄を含む相続手続については、弊事務所のような相続専門家にまずは相談してみることをオススメいたします。
執筆者 森俊介
行政書士森俊介事務所 代表行政書士
『相談者に寄り添う相続とすること』がモットー。触れた相談事例は2000件以上。相続を取り扱う司法書士・税理士・弁護士と連携しワンストップサービスを築く。各地でセミナー相談会を実施中。Youtube・Twitterでも相続・遺言情報を発信している。
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